喘息について

 

●ぜん息が増加している理由

 1960年代の初めに行われた調査では、ぜん息の有症率は1%前後でしたが、30年後の1990年代の調査では、約3%といわれています。

 ぜん息の発症因子には、@素因、A抗原物質(アレルゲン:アレルギーの原因となる物質)、B増悪因子(発作を引き起こす刺激)がありますが、ぜん息の増加は@よりもAおよびBの環境因子の影響が大きいと考えられます。抗原物質には吸入性抗原があり、生活環境におけるこれらの増加は重要な原因です。

 吸入性抗原とはチリ、ダニ、ペット、カビ類や屋外の花粉、昆虫類を言いますが、最近の住宅は、気密性が高くエアコンによって室内の温度が安定しているため、ダニ・カビ等が繁殖しやすい環境となっています。これらが家塵(ハウスダスト)となって吸入量が増えているのです。室内ペットの飼育も増え、それらの毛垢や唾液がアレルゲンになってい
ます。特に、猫やハムスターは強いアレルギー源です。また、新建材や接着剤を多く使用した建物ではホルムアルデヒドなどの化学物質による室内汚染も無視できません。

 食物のうち抗原となるのは、ほとんどタンパク質です。和食中心から卵・乳製品・肉類などの多い食事への食生活の変化によりタンパク質の摂取量は格段に増加しました。又、食物に添加される防腐剤や着色料の使用量も増えていますが、これらもぜん息増加の一因でしょう。

 増悪因子のなかでは、都市化、産業交通手段の発達に伴う大気汚染物質の増加、かぜやインフルエンザなど呼吸器感染の増加、心理的ストレスの増加などがぜん息の増える原因と考えられています。

 ぜん息患者はこれら生活習慣や環境の変化が複雑に絡み合って増加していると考えられます。

●気道の炎症

 炎症という言葉は、のどの扁桃腺炎・鼻炎・結膜炎・皮膚炎などいろいろな病気で使われています。発赤、浮腫(むくみ)、白血球細胞の集合が見られ、発熱や痛みを伴う病変を炎症というのです。毛細血管が拡張して赤くなり、血液中の液体成分が漏れて浮腫を作ります。かぜの時にのどの粘膜が赤くなり、腫れて熱を持つのは、かぜウィルスと闘うため白血球が集まってきて炎症が起きるためです。

 ぜん息の患者さんの気道(気管支)は、いろいろな刺激に反応して容易に狭窄し、空気の流れ(気流)が制限されます。気管支が収縮しやすい(過敏性)のは、気管支にぜん息特有の炎症が起きていることが原因とわかってきました。この炎症を起こす原因の一つはアレルギーですが、病理組織の特徴は、気管支の粘膜がむくんで、白血球の一つである好酸球、T細胞というリンパ球や肥満細胞(マスト細胞とも呼ばれ、皮下、粘膜下、臓器の皮膜などの結合組織に広く分布する細胞)が集まり、粘膜の細胞が剥離(はくり)していることです。

 炎症が繰返し起きますと、線維物質が増え、気管支を収縮させる平滑筋が肥大し、さらにタンのもととなる粘液を分泌する腺も増えて気管支壁は厚く硬くなり、気管支の内径は次第に狭くなります。チリが多くなるとさらに気流は制限されて呼吸困難になるわけです。こうした炎症の結果、気管支粘膜を中心にいろいろなサイトカイン(免疫系細胞の増殖・分化・運動を制御する物質)や化学伝達物質(ヒスタミンやロイコトリエンなどのように血管や気管支平滑筋に作用する物質)などの生理活性物質(生理的反応を引き起こす物質)が放出され、気管支の過敏性が亢進(こうしん:刺激に対して敏感な状態)すると考えられています。ぜん息の治療は、気管支を拡張させるだけでなく、この気道の炎症を抑えることが大切です。